散文録

つらつら書くのが楽しい。日記・作品の感想など

『ラ・ラ・ランド』と夢と劣等感の話

今更ながら『ラ・ラ・ランド』を観た。

「何をハッピーエンドと捉えるか」に
よって賛否が分かれている印象だけど
私は結末も含めて好きだ。

オープニングの渋滞シーンと、
ルームメイトとのミュージカルシーンで
早くも引き込まれたのと、
生で見たら泣けてくるんじゃないか?
ってくらい、美しい空の色が印象的。

サウンドの良さは言うまでもなく、
本屋とかカフェでかかってるジャズが
好き、レベルの軽すぎるジャズ好きでも
普通にハマった。サントラ買う。

そして内容が面白い。
ここからネタバレ注意
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面白いと思ったのが、
セブの抱える劣等感と、彼の"夢"の
内容が途中で変わってしまったこと。

バンドで成功したセブがミアと食事中
口論になるシーン、ここが印象的だった。

セブの夢は、自分の店を開き
滅びかけのトラディショナルなジャズを
自身の店によって救うことだった。
彼の愛したジャズはとても現代人に
好かれるものではなかったが、
その店には「純粋なジャズ」への思いと
モダンジャズの父と呼ばれる
チャーリー・パーカーへのリスペクトと
こだわりが詰まっていて、
人からの評価など気にしないものだった。

そんな彼が
母親に自身のことを話すミアから
密かに金銭的な不安を感じ取ったのか
安定した職を、と始めたバンドの仕事は
とても彼の価値観と合うものではなかった
が、これが売れてしまう。

売れっ子バンドメンバーとなった彼が
彼女の舞台活動を軽視するように
自身のツアーに着いてくる?と訊ねた
ところから口論が始まるのだが
ここで彼は、
自身のバンドの音楽が好きかの問いに
「なぜ そんなことが大事なんだ?」と
返し、
「昔からの夢はどこへ行ったの?」に
「これが俺の夢だ」
「俺なんかが成功を味わえた
人の好む音楽をやって──
ようやく人を楽しませてる」と
言うようになる。

「でも人は?」に「放っとけ」と
言っていた彼が、「人の好む音楽」を
「俺の夢」「成功」と語る。
ここで彼の夢はすり替わってしまった。

この後に続くセブの
「君は優越感のために不遇の俺を愛した」
というセリフがこの話に繋がっていると
思っていて、要は彼は心のどこかで
認められたい思いと、それが満たされない
劣等感を抱えていたと感じている。

ミアと最初に会話した際「"本物の
ミュージシャン"って言った?」に
「いいや」と返した時から
そう思っていたのかもしれないし、
バリスタか だから俺を見下した
態度なんだな」というセリフや
「指図させてやった」という態度からも
社会的な劣等感と悔しさが感じ取れる。

が、この食事のシーンからセブは終始
自信に満ちているように見えるし、
成功への道を掴みかけたミアを励ます際も
成功者という優越感を感じた。

名声が手に入ってしまうと
例えどんなに価値観の合わない活動でも
手放せなくなってくるのだろうか。
いくら評価を気にしないと言っても
承認欲求は切り離すことができない。
この承認欲求によって、成功の中身が
変わってしまったことが興味深かった。
多分、セブに限った話じゃないと思う。

ただ、ラストにセブが自分の店を開いて
いたのは、心のどこかで本来の夢に蓋を
している自覚があったのかもしれない。

このラストがとても好きで、
二人の夢は最終的に成功する。
ミアが成功したことがわかるシーン、
冒頭のカフェで羨望の眼差しで見つめて
いた女優と振る舞いを被せたのは、
ミア自身もあの羨望の記憶を忘れて
いなかったのだろうか。
冒頭とリンクするあのシーンが好き。

セブの店の名前がああなったのは、
現実的な判断ができるようになったのか
それとも未練の表れなのか。

最後は甘くて心が弾むような
色鮮やかな妄想と、
現実に立ち返るところで終わる。
妄想の美しいミュージカルからの
結ばれなかった現実で終わるという
この苦さこそが、この作品の一番
美味しい味つけだと思っている。
あのまま付き合っていても成功したか
わからないんだから、これでいいんだよ。
騙されたり挫折して傷ついた二人が
最後には本来の夢を叶えた。
その代償がほろ苦さで収まってるなら
これでいい。
私はハッピーエンドだと思ってる。

そもそも最初に惹かれ合ったのも
高揚感による恋愛感情への助長も
あるのでは?と一歩引いた目で
見ていたからかもしれない。
夢を追う者同士はわかるんだけどね。
(でもあの付き合いたてのウッキウキな
浮かれ具合、好きだったな)

 

そんなことを思っていたのに
2回目に見たらラストに胸が痛くなって
ホロッと泣いてしまった。
でも、この痛みこそが良いんだと思う。
痛くて苦くて美しい、そんな作品を観た。