散文録

つらつら書くのが楽しい。日記・作品の感想など

春の汐留 それから埠頭へ

「汐留に行きたい」という漠然とした思いがあった。都心を散策するのが好きなんだけど、汐留駅を降りて歩いたことがない。だけどゆりかもめに乗る時に眺める街並みは都会のビル群でも日本橋や銀座とは違った雰囲気があって、なんとなく「知らない街への憧れ」みたいなものがあった。

汐留に行って何がしたいかと言えば、行ってみたい場所がある。都心の庭園、浜離宮恩賜庭園
豊かな都会の緑が大好きで、小石川後楽園日比谷公園葛西臨海公園に街中の街路樹まで東京の緑に癒やされてきたけど、憧れの未知の街と「浜離宮」という言葉の響きの美しさに惹かれた。

三寒四温を繰り返して気づけば「冬」よりも明確に「春」に近づいたこの時期。暖かい気温の日は、花も見頃かもしれない。
幸いにも休日の天気は晴れ。春を通り越して初夏みたいに気温の高い日に、ぴかぴかの晴天に浮かれながら家を出た。

 

と言いながら朝はゆっっくりと寝てしまったので、「ヤバい寝すぎた!」と食事を抜いて家を出たので、汐留駅に着いたところで遅めの昼食を摂る。本日のランチはカレッタ汐留で『くるみ胡麻だれそば』。

初めて食べる胡麻だれのお蕎麦、美味しい!
左下の小皿の下が胡麻だれになっていて、小皿の刻んだくるみと炒り胡麻を加えたクリーミーなつゆでいただく手打ちそば!冷たいざるそばが美味しい暖かい日だったので、ツルツルの喉越しとカリッと楽しい食感と胡麻とくるみの香ばしさであっという間に完食。ごちそうさまでした。

日本テレビ本社もある汐留は普段はオフィス街のためか、休日でも都内にしては閑散としていて日比谷あたりの人混みに比べるとだいぶ過ごしやすい。ついに降り立った未知の街並みを歩きながら、頭上にそびえるゆりかもめの線路や近代的なオフィスビルに「知らない東京だ…!」と一人でワクワクする。
「ここは比較的人も少なくていいなー」なんて思いながら歩いていたけど、庭園に向かうにつれてやっぱり人も多くなってきた。

そして到着、浜離宮恩賜庭園

ここまで来ると外国人客の観光バスなんかも留まっていたりして、インターナショナルな空気が濃くなってくる。断片的な英会話を聴きながら入場チケットに並んだ。

そして入場。
そうそうこれが見たかった。青空とビル群と、緑!日比谷公園に行った時も似たような感想を抱いた気がする。

この日は雲一つない晴天だったんだけど春特有の霞がかった青空で、淡い青色に黄砂を連想させる少しの灰色を含んだ霞空は、それでも「春だな」って感じで気分が良かった。

中に入ってすぐに梅の木があって、梅の花が好きな身はいきなり舞い上がる。
満開ではない、まだ蕾が多い中に開花が混じった梅の木は「ちょうど今、咲き始め」というライブ感がとてもいい。入ったばかりなのにいきなり写真を撮りたくて立ち止まった。


そして、すごいのがここから。
少し進んだ先に菜の花畑があって、これがすごい!

菜の花!

菜の花!

菜の花!!
と、奥に見えるビル群のコラボレーションが、すごくツボ。

思えば未だかつて、「菜の花畑」というものをきちんと見たことがなかったかもしれない。菜の花畑って、こんなに緑で黄色で、春なんだ。
光の中の黄色と緑に、春の手前だっていうのにもう「春爛漫」を先取りしたような気持ちになった。小さいミツバチがたくさんいたんだけど、ふわふわ舞うように飛んでは花へ、飛んでは花へ。そんな光景は、なんていうか「生命」の中にいるような気持ちになった。

 

いやーすごかった、と感動して花畑を抜けたところで、まだまだ庭園は続く。
地図でいうとこの先は梅林らしく「また梅の木が見られる!?」と大満足で進む。

私は冬の終わりから春を感じる「蕾」が大好きなんだけど、そんな蕾があった!

ぷっくり丸く膨らんで、先が色づいて、まさにこれから咲こうとするライブ感。って上でも同じようなことを書いてしまったけど、でもこの植物のライブ感がすごく好き。

蕾もあるけど、満開に咲いている花もあった。

幹から直接咲いているのも好き。

 

こうして植物のライブ感を存分に感じながら小道を抜けたんだけど、その先の芝生の奥に、またもや大好きな光景が広がる。

水辺を渡った対岸に広がる、都会の景色!

青空、水面、ビル群!

青空、水面、ビル群!

なんてことない景色なんだけど、なんてことない景色なんだけど(2回言う)、それでも好きなものは好きなんだ。風のない水面が水鏡のようにビル群を映す、春の青空と水鏡と人工的なビルの光景。美しい…。

水鏡とビルの風景はこれだけでなくて、更に進んだ先に池があってそこにも景色が映る。

雲一つない空に、風のない日っていうのもベストなタイミングだったと思う。高層ビル、それから東京タワーが綺麗に映る。

茶屋のような建物があって、和室の撮影だけできた。美しい…。

 

喫茶もできる茶屋は行列だったので今回はスルーして、更に歩く。初夏のような陽気だけあって、初夏の若葉のように緑も美しかった。

 

おおよそ見て回った頃には2時間近くも経っていて、ひたすら立つか歩くかだった身は気づけば脚がパンパンになるほどの疲労。だけど気分は大満足な、そんな庭園散策だった。

青空、緑、花の息吹に水鏡とビル群。
大好きな景色をこれでもかと観ることができて、初めての来訪で一気に好きな場所になった。
また来ます、ありがとう汐留。駅に戻って冷たいカフェインと糖分が沁みた。

 

で、これで満足して帰宅…ではなかった。
私にはもう一つ、行ってみたい場所がある。それが貿易港。
港の中でも優雅なクルーズの客船ターミナルではなく、無骨にコンテナを積んだ貨物船の埠頭が、更に言えば埠頭で貨物船の荷積みや荷降ろしが見たくて、しかもなぜか「春の港が見たい」という思いが強くあった。なんで春なのかはわからないけど。

埠頭で貨物船の荷積みや荷降ろしなんて見られるのか?と調べてみると、ちょうどお台場の近くに青海コンテナ埠頭があって、『青海南ふ頭公園』という公園からその様子が間近で見られるらしい。

ちょうど汐留の庭園が見たかったし、汐留からはゆりかもめ青海コンテナ埠頭に行ける。というわけで、この日は汐留の庭園から青海の埠頭へ。カフェで一息ついたその身でゆりかもめに乗り、テレコムセンター駅から青海南ふ頭公園へ赴き存分に楽しんできた。

休日のテレコムセンター駅は閑散としていて、駅を出ると静寂が広がる。
そんな中、歩いていくと静寂の奥から「ガタン…」「ガシャーン…」と大きなクレーン作業のような音が聞こえてきて、「もしや船が着いてる!?」とナイスなタイミングに興奮しながら公園に入る。そして広がる光景に、「うわぁー…!」と思わず声が出た。

船が、船が着いてる!

コンテナを載せた大きな船が、まさに埠頭の船着場にいる!
てっきり到着した船から荷降ろしをしていると思ったら、実際には逆で船に貨物のコンテナを積んでいるところだった。

手前の赤と白の大きいのがガントリークレーンというらしく、これが巨大なUFOキャッチャーのようにトラックに載ったコンテナを掴んで貨物船の船上に載せていく。
左側のコンテナの山から、色んな会社のロゴが見える。その一つをトラックが載せて船の真横まで走り、クレーンがトラックから船に載せていく。そうして空になったトラックがまたコンテナの山に戻り、コンテナを載せて走るサイクルを繰り返す。

正面のトラックからまさにクレーンがコンテナを持ち上げている。こんなに巨大なスケールなのにスピードが意外と速くて、1つのコンテナを1分ちょいで船に積んでいくらしい。感動して動画も撮ったんだけど、確かに3分の動画で3つくらいコンテナを積んでいた。こんなに速いのに、言うまでもなく正確にぴっちり揃えて積まれていく。

 

「すごい…最高…」と感動しながら歩くと、埠頭なので当たり前だけどそこは海の景色。庭園を歩き回ってからの少しだけ日が落ちた午後の空と海は、絶妙な風景を映してくれる。
対岸に見えるのは同じような埠頭のガントリークレーンだろうか。なんだかSF作品の大型ロボットみたいだと思った。

大型の貨物船と比べると、普通の船も小さく見える。いいよね、港の景色。

ここから見る埠頭はこんな感じ。これでも十分に迫力がある。

正しい言葉かはわからないけど、「ロマンがある」ってこういうことなのかもしれない。なんてふと思ったりした。大きな大きなクレーンで、舶来品を運ぶ。海を渡った貨物を運んだり、海の向こうへ品物を届ける、そんな貿易の港。なぜかそんなことを考えて目の前の光景を見るだけで、「ロマン」なんて言葉が湧いて出た。

 

夕方が近づき、「いやーいいもの見れましたな」と存分に満足して駅まで戻る。
ここから駅まで歩いて5分弱だったんだけど、その道のりがレアだったので面白くて写真を撮った。

360°、人がいない!

この写真は決して消しゴムマジックを使った写真ではない。本当に、ぐるりと一周見回しても誰も人がいなくて、ひと気のない道路の奥から「ガシャーン…ガシャーン…」とひたすら船への荷積みの音だけが聞こえる。

平日でないとはいえ、オフィス街とはいえ、東京の港区でこんな光景が見られることがなんだか無性に面白くて、「東京のエアポケット…」なんて言葉が浮かんだ。本当に時空の空白地帯に迷い込んでしまったようで、不思議な感覚と共に駅まで歩く。こんなに閑散としているなら、休日にボーッとしに行くのもいいかもしれない。

 

そして駅まで到着して帰宅…とはならない。なんとこのテレコムセンター駅、駅直結のビル20階に『東京臨海部広報展示室 TOKYOミナトリエ』という東京臨海部や港を紹介する施設がある。駅に直結で無料で見られるので、港に感動している身は行かない理由がない。どうでもいいけど『東京臨海部広報展示室』って言葉がなんだかカッコいい。

ミナトリエに行くと、私たち以外には誰もいなくて意外に思いながら展示を見る。
ガラス張りの壁は港の光景が一面に展望できて、しかも面白かったのが大きなパネルをタッチするとリアルタイムで今いる船の情報を教えてくれること。客船なのか貨物船なのか、どこの国から来たのか。
私たちの見たあの大きな貨物船は、どうやら台湾の船らしかった。欢迎来到日本!で合っているかな?Welcome to Japan!

そうこうしているうちにガラス張りの外の海上には走っているコンテナ船が見える。貨物船はこうやって海を進むんだ。またパネルをタッチするとこれは韓国の貨物船らしく、「本当に外国から来てるんだ…」と感動した。多分、私はこのパネルと景色があれば一日ここにいても飽きないと思う。

さっきの埠頭を見下ろすとこんな感じで、コンテナとクレーンと船が一望できる。

 

他にも展示や説明が充実していて、埠頭の仕組みや日本の港や舶来品の種類なんかまで、子供のように「なるほど」と読む様はまさに大人の社会科見学だった。先に文字で勉強するより、生で見て感動した脳みそに文字を送り込んだ方が学びの吸収がいい気がする。他にお客さんもいなかったので、連れとのびのび見学してしまった。

正直なところ、貿易って「空輸」のイメージばかりが強くて船を用いた海上輸送のイメージがあまり湧いてこなかった人生なので、今回こうして見られてすごく勉強になった。

そもそもどうして貿易港を見たくなったかと言うと、仕事でゆるーーく貿易を扱うから。
と言っても直接携わる部署ではないし、ゆるーーく扱うのは荷物ではなく書類なんだけど、書類でしか見られないからこそ、貿易を肌で感じたくてこうしてここまで来た。
平日に戻ったところで仕事に活かせるわけではないが、そういう一見無駄な勉強が意外と人生を豊かにすると根拠もなく信じている。

 

満足して展示を後にして、テレコムセンター駅ではなくお台場のダイバーシティまで歩いてご飯を食べて帰った。意外と10分かからず歩いて行けるのでお台場エリアも知らないことがたくさんある。と言いつつ前に同僚と同じテレコムセンター駅の日本科学未来館AKIRAの音楽展に行って同じようにダイバーシティまで歩いたのを思い出した。記憶は簡単に脆くなる。

ゆりかもめの線路から望むお台場の夕日が美しくて写真を撮った。


春に近い日の、いい休日だった。と書いているうちに東京で桜の開花のニュースが出た。なんてタイムリー。こうして本格的に、春が来た。