散文録

つらつら書くのが楽しい。日記・作品の感想など

最終回:出雲行の夜行列車おりた時から

前回はこちら

ha49re.hatenablog.com

夜行列車に始まる長い旅も、いよいよ最終地。鳥取に降り立った。
今日は天気がいい。

鳥取駅からバスに乗り、およそ20分で砂丘近くに着いた。
ちなみにバスを降りてすぐバーンと砂丘があるわけではなく、少し歩いて向かう。

砂丘へ向かう道すがら、「砂の美術館」があった。

興味がないわけではない…が、どちらかと言えば早く生の砂丘が見たい。
という事でサクッと中を覗いて行こう。
とか言っていたんだけど、ここで思わぬ誤算だったのが、お土産店の充実さ。
ラクダと海風をイメージした塩キャラメル味のホイップチョコにはアクセントでスパイスを加え、異国感を漂わせる仕上がりに。
砂丘を感じさせるザクッとした食感が楽しめるサンドクッキーです」
という謳い文句の鳥取サンドクッキーがあまりに美味しそうで、素通りするはずが立ち止まってしまった。
塩キャラメル味にスパイスで異国感って。想像できそうでできない、魅惑がすごい。
↓のオンラインストアで謳い文句が見られる。

shopping.okashinet.co.jp

他にも「砂チョコ」なるものがあまりに美味しそうすぎて、鳥取サンドクッキーと砂チョコを思わず衝動買いしてしまった。
お土産は後で買うつもりだったけど、ここまで吸引力のあるお土産は鳥取が初めてだと思う。
ちなみに帰宅して味わったが、想像通りの美味しさ。
私がザクザク食感が好きなのもあるけど、個人的にお土産のお菓子が美味しい地No.1かもしれない。

思わぬところでエンジョイしてしまったところに、道路を歩いていると何やらリフトがあってビックリした。普通の道路にリフトって、なんだかちょっとシュール。

どこに行くやつなんだろう、砂丘?と一瞬で興味がそそられたので、乗ってみることにした。
結果的にこれが大正解。

海を見下ろす景色と風が、最高に気持ちいい!

青い空、青い海、ちらりと見える砂丘…というレアな光景と潮風を浴びて、開放感が半端ない。

道路から見上げたのはこの辺か?というあたり。この時は3月だけど車の数が多くて、やっぱり観光客も増えてるんだな…というのを実感した。
遠くに海が見えるのがいい。

太陽と開放感で気分がアガったところで、いよいよ砂丘に降り立つ。

空!海!砂漠!がとんでもなく広い!
この写真でも割と歩き進んだところだった気がするので、実際はもっと広い。
ちなみに入り口付近でズラアァッッと並ぶ列があって、なんだろうと思ったらラクダに乗る列だった。
ラクダにも乗りたかったけど、まさかこんなに並ぶとは思っていなかったので断念。
あとで聞いたら早くても1時間待ちだったそう。

正面に見えるのがいわゆる「馬の背」かな。その下にオアシスのような水溜りがある。

砂丘のオアシス。思いのほか透明度があって綺麗。
はしゃぐ子供が可愛いなと思いつつ馬の背を見上げると、この角度で登れるのかってくらいの「壁」感があった。

登る人たちがチャレンジャーのようで、知らない人ながらカッコいいな、すごいなと思った。登ろうとすることがカッコいい。
夫もここから登りたいというので、私は一番緩やかな坂で登り、頂上で待ち合わせしようと言った。私はチャレンジャーにはなれない。

じゃあ、一番ゆるいところから登ろう。これくらいならラクでしょ。
…と思っていたが、とんでもない!
一歩踏み出すごとにズルッ…ズルッ…と足が砂にとられて滑り落ちて、力がうまく伝わってくれない。普通の坂を登るような感じで想像していたら、全然違った。
思わず砂丘エスカレーター作りませんか…?と景観ぶち壊しなことを思い浮かべるくらいには、運動不足の身にしみた。靴が砂まみれになり、汗をかきながら一歩一歩登る。
えーきつーいという声や歓声や笑い声を聞きながら、なぜか私の脳内には中島みゆきの「旅人のうた」がリフレインしていた。もはや私もチャレンジャー。負けないわよという意地で登る。
己に打ち克ち、頂上にたどり着くと海が見えた!

きらめく海を眺めながら、少しだけ放心状態になる。
潮風に吹かれる汗を感じて「ミネラル浴びてる」という謎の言葉が浮かんだ。
頂上にも人はたくさんいて、ザワザワとした人の間で疲労感と開放感に包まれていた。

ふと足元を見ると、貝殻が落ちていた。
海が近いので不思議ではないのかもしれないが、砂漠で貝殻を拾うという事がなんだか面白い。
磨き上げたようにツヤツヤのツルツルでほんのり桜色をしたものがあって、今まで見つけた貝殻で一番綺麗だと思ったので「大変よく頑張りました賞」として持って帰ることにした。

疲れた!と言いながらも急な角度を登りきった夫と合流して、海へ向かう。
下る時も一歩一歩ズルズルと足をとられるので、楽ではなかった。
それでも降りきると、景色が海の砂浜へと一変する。

砂浜へやってきたのなんて、何年ぶりだろう。

ちゃぷん、という足元の波音を聞きながら深呼吸する。
鳥取砂丘には海がある」とは知っていたが、まさかここまで海を感じられるとは思っていなかった。
数年ぶりの旅行、久しく見ていなかった砂浜の海、と思わず遠くを見つめる。

ずっと見ているとセンチメンタルな気分になりそうだったので、この辺で戻ることにする。
帰りもあの山を越えるのか…と思うと若干憂鬱になったが、また己に打ち克つしかない。
想像よりもずっとエネルギッシュに砂丘を過ごした。次回来る時はもう少し体を鍛えてから来よう。
太陽とミネラルを浴びて、砂漠を発った。
さよなら鳥取砂丘

 

ちょうどいい感じにバスがあったので、鳥取駅に戻る。
今日はあとは空港へ行くだけなのだが、鳥取砂丘から空港へ直通バスというのがなく、鳥取駅→鳥取砂丘鳥取駅→鳥取空港、とバスで移動しなければならない。

鳥取駅で何しようかと話しながら、お土産屋さんで何度か見た「牛骨ラーメン」というワードが私の中に引っかかっていた。牛骨ラーメンってなんだろう。
調べると、どうやら鳥取県のご当地B級グルメらしい。これは食べたい!
というわけで砂丘ですり減ったエネルギーを補給すべく、牛骨ラーメンを食べに行く。
と言っても中途半端な時間帯に開いているお店がなく、駅の近くにはイオンのフードコートしかなかった。が、それもまたヨシ。
THE・観光地ではなく地元の生活に根付いたイオンにお邪魔するのも、なんだか乙だった。
フードコートで牛骨ラーメン「ごっつおらーめん」をいただく。

沁みる…っ!
塩分が汗で流れ、疲労の塊だった身にラーメンが沁みる。
すっきり、あっさり醤油味の奥にまろやかさを感じる牛骨ラーメンは、癖がなく素朴ながらも優しく感じる。
素朴なフードコートの一杯が、染み渡った。

思わぬB級グルメとの遭遇に満足したところで、そろそろ空港へ向かう。
鳥取に着いてからはとにかくバスに乗っていた感覚がある。

揺られること約30分、鳥取空港に着いた。
正式名称は「鳥取砂丘コナン空港

この空港、名前の通り「名探偵コナン」の博物館のようになっていて、どこもかしこも作品があふれている。
展示・解説・グッズ店…が空港全体にギュッと詰め込まれていて、ファンにはたまらないと思う。

壁一面にキャラクターが描かれていたが、金曜ロードショーの映画を流し見するくらいしか作品に触れていなかった身としては半分くらいわからなくて、いつの間にか警察関係者がすごく増えていた事が面白かった。作品を知っていればいるほど楽しい空間だったんだろうな。

さて、ここには絶対に行きたかったお店がある。コナン空港なのでコナンのお店…ではなく、鳥取名物(?)の「すなば珈琲

空港にもお店がある事を調べておいたので、ここで時間までゆっくりすることにする。
アイスコーヒーが大好きなので「水出しアイスコーヒー」を頼んだが、すごーく大きなグラスがやってきて、なんとなく気取ってない感じが好きだった。コーヒーの味に詳しくないが味は普通に美味しくて、疲れた体にカフェインがゴクゴクと染み渡る。

鳥取でしか味わえないすなば珈琲を堪能し、コナンの展示を一通り見て回り、いよいよ搭乗手続きに向かう。
鉄道好きとしては空港は本当に久しぶりで、保安検査も搭乗手続きも内心ドキドキしていた。次に乗る時もきっとドキドキしていると思う。

羽田行の最終便は満席だと、前日からメールで案内が来ていた。
心ゆくまでグッズを買ったんだろうか、コナン柄のバッグがパンパンに満ちている女性に、子供連れに、夫婦。ここにいる人たちが皆、羽田に帰っていく。
みっしり埋まる搭乗ロビーでソワソワしながら、旅の終わりを感じた。
窓から見えるのが、これから乗る機体だろうか。

いよいよ旅の帰路。
久しぶりの飛行機も実は楽しみにしていて、機内のアナウンスから滑走路から離陸までソワソワとワクワクが混ざり合っていた。
機内のチャンネルでジャズを聴きながら、夜空から見る地上に光が散りばめられていて宝石箱をひっくり返したようになっている光景を、美しい…とずっと見ていたらもう千葉にいた。
センチメンタルに浸る暇がなかった。

着陸の直前、真下にディズニーリゾートが見えて、なんと打ち上がる花火を上から見ることができた。2回も!
旅の最後に小さくて美味しいデザートを味わったような、そんな帰路だった。
羽田からリムジンバスに乗り、玄関で靴を脱いだら砂丘の砂がこぼれ落ち、こうして念願のサンライズ出雲の旅が、すべて終わった。
幸せに満ちた旅だった。


「書き終わるまでが旅行」と決めていたので、こうして旅が今、本当に終わった。
出雲行の夜行列車に乗った時から、いや、切符を取ろうと画策した2月から始まった長い旅も、振り返るとあっという間だった。
満足の旅も、いくつか心残りがあるので備忘も兼ねて書いておく。

出雲そばの釜揚げを食べそびれたので次回は
・出雲の神社をもう少し。次は熊野神社
・今回は温泉に入っていないので、温泉旅がしたい
 玉造温泉に、松江しんじ湖温泉、他にも色々
島根県立美術館に行く
・晴天の松江宍道湖・夕景色を見てみたい
鳥取の白兎神社に行けなかったので次回は
鳥取砂丘で次こそラク

きっと他にもまだある。が、特に島根は「また行きたい」を通り越して「絶対また行く」と何度も言っているくらい好きになったので、心残りがある方が目的があっていいと思っている。

夜行列車の一夜に始まり、縁切り神社で悪縁が切れなかったり曇り空から夕陽が見えたり砂丘にヘトヘトになったり、面白い出来事の合間に美食と絶景が挟まれた、最高に濃い時間だったと思う。

きらめきの3泊4日、本当に楽しかった。
津軽海峡・冬景色』の歌詞から取ったふざけた旅行記も、これにて完結。
9回にも渡る旅行記を読んでくださった方々、ありがとうございました。